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白い壁に絡まる蔦の葉が風に揺れ、大きながらり窓からは、気持ちのいい山の風が入ってくる。広い敷地の中には梯子を掛けて登るほど大きいさくらんぼの木もたくさんある。こんな屋敷でゆったり暮らす人々が、ブルジョワと呼ばれるのだろう。 この屋敷の主人であるミルは、生まれてから今までずっとこの屋敷で暮らしている。おでこのあたりは初老といっていいかもしれないけれど、スポーツタイプの自転車を愛用しているし、顔色もよくて若々しい、そして人のいい紳士である。ミル以外の住人は、今は年取った彼の母親と、使用人のアデルだけ。広すぎるし、古くてあちこち傷んでいるところの修繕費用も馬鹿にならないらしい。でも、ミルはこの家が好きなのだ。 ミルはこの屋敷を管理しながら、自転車で蜂蜜を採りにいったり、川へザリガニを採りに行ったりして、あとは老母が作ってくれた料理を食べて楽しく暮らしている。蜂蜜採りは、蜂の巣のそばでじっとしているだけでいい。ちょっとおまじないをかければ、ハチのほうから体にたかってきてくれる。ザリガニを採るのにも、特別な道具なんて必要ない。靴を脱いでざぶざぶと川に入る。そして、両腕を沈めてじっと待つ。そして、おもむろに腕を水からあげると、両手の指という指にはザリガニがどっさり食いついているのだ。これを繰り返せば、大勢の家族のためのディナーのおかずくらいにはなる。老母の急死で、家を出ていった家族たち---ミルの娘とその子どもたち、ミルの弟とその2番目の妻、すでになくなったミルの姉の娘など---が帰ってきたのだ。 |
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屋敷は急に活気づいて、キッチンにも一同の食事を作る材料が山積みされている。ミルの娘が主に皆の食事の世話役だが、パリで起きた革命(1968年、五月革命)の影響で、食料やガソリンが手に入らなくなる。ラジオのニュースが「パリでは、ポテトの値段が48時間で1キロ0.9フランから3フランになった」と報じる。こうなるとミルの出番が増える。「ザリガニを茹でるときには、ブイヨンに酢を入れて」。ミルは自分でアデルに指示している。料理をしきっていた母親はもういないからだ。そして、大人も子どもも、ザリガニを盛った皿を前に、ひたすら手で殻をむいて食べる。停電のため、ろうそくを灯し、テーブルにはワインとパン、そしてサラダ。街が革命でもストでも、食事はきっちりとるのだ。たった数日間の出来事を描いているのに、食事や料理のシーンがとても多い。 田舎を離れて都会暮らしが身についた他の家族たちは、屋敷や家具をそっくり売り払って、遺産を分配しようと主張する。老母の遺体がベッドに寝かされているわきで、おびただしい量の家具や食器、銀製品の分配が始まり、いい争いも起きる。ミル自身は、「僕は水や木がないと生きられない」と思っているのに。 キッチンのテーブルには、山のような野菜。また夕食の準備のようだ。肉にじゃがいも、にんじんなど。「ポトフ」の材料を、一緒に煮込まないでそれぞれ別に調理してテーブルに出す。ミルの家のオリジナルというわけではなく、これがブルジョワ風の「ポトフ」なのだそうだ。ミルが骨の髄をスプーンですくって、パンに塗って食べている。64年ものの赤ワインとパン。しかし、食卓の話題は遺産の分配、屋敷や畑を売る話だ。 左下へ続く |
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ストライキの影響は、葬儀屋にまで及び、老母の葬式ができない。それなら遺体は、屋敷の庭に埋めようということになり、使用人がつるはしで敷地の一角をひたすら掘っている。その一方で、ミル一家は木陰でランチ。白い大きなクロスを広げて、寝そべったりしてくつろいでいる。黒ネクタイの喪服なのに、優雅で気持ちよさそうな光景だ。 その後、もういちど野外で食事をする場面があるが、こちらは優雅ではない。「ブルジョワは狙われる」といううわさが流れ、家族一同であわてて山のなかへ逃げるのだが、野宿などしたことがない面々、すっかり疲れ切ってしまう。生ハムをそいで食べては「のどがかわく」と文句をいったりするが、おしゃれなバスケットにパンを入れていくあたりは、さすがブルジョワ一家である。 | ![]() |
トマトを運ぶトラックの運転手がひょんなことから加わったために、食料不足はとりあえず解決する。キッチンにはトマトの山。アデルはトマトに挽き肉の詰め物をしている。ミルの娘はめん棒で生地をのばしている。何を作っているのかはわからない。この作品で、ぜひ注目したいのがこのキッチンだ。テーブルクロスは大きめの赤のギンガムチェック。レンジは白で、壁のタイルは明るい茶系。キッチンの小物は赤でコーディネイトされ、アクセントになっている。都会的ではないが、優雅で素敵なのだ。 そんな忙しい数日間でも、それぞれしっかりロマンスもあったりして---ミルは実の弟の後妻と親しくなってしまった---そして、葬儀も無事に終わり、家族はまた町へ帰っていく。屋敷にはまたミルひとりが残された。屋敷は売りに出されるらしい。ミルを大切に愛してくれる孫娘も、お別れのキスをして行ってしまう。もう大勢で食事をとることもないのだ。寂しげに手を振るミルの表情が印象的なラストだった。 |