海辺の別荘で過ごした日々の象徴である家族のスープ

魚のスープ

1992年 イタリア/フランス
監督/フィオレッラ・インファシェッリ
出演/フィリップ・ノワレ マーシャ・メリル





 誰でも幼い頃の思い出の中に、必ず登場する場所や情景がある。イザベラにとって、それは子供の頃から毎年夏を過ごしたトスカーナの別荘だ。窓から見えるエメラルドグリーンの海と、両親、兄姉、そして男友だち。思春期の揺れ動く心。映画はイザベラの回想で構成されている。
 映画プロデューサーの父親と、元大部屋女優の母親は再婚どうしで、兄や姉はそれぞれの連れ子。海辺の傾斜地に建っているらしいその別荘には、プールもあるし、インテリアもリゾートらしいアレンジだ。バルコニーの下には地中海が広がり、海辺で遊ぶ50〜70年代の女性たちのモードが美しい。イザベラも姉のアンナも、海で泳いだりヨットに乗ったりするが、日焼けした肌に鮮やかな水着やサンドレスがよく似合う。この別荘には、地下に試写室もあり、夏のあいだは父親もここで仕事をすることが多いようだ。映画の関係者もひんぱんに出入りし、大勢でにぎやかに食卓を囲むようすを真上から撮ったシーンは印象的だ。海を眺めながら味わう新鮮なシーフードとワイン。特に手長海老にイカ、しゃこ、かさご、ムール貝などで作る「魚のスープ」は、父親の自慢であり、家族と別荘で過ごす日々の象徴のようなものだ。

 年頃になったイザベラは、ある日父親から朝帰りをとがめられる。すねた気分のままキッチンにいって食事をするイザベラ。母親はエプロンをかけて、薄切り肉のカツレツをフライパンで揚げている。イザベラも、ここでなら母親に対して素直になれた。そのうち、イザベラは漁師の青年とつき合うようになる。畑で夕日を浴びながらのデート。ぎこちなく彼と抱き合っていた彼女は、やおら跳ね起きて「魚のスープ! 」と叫ぶ。家族の夕食のためにスープの材料を買いにいく途中だったのだ。魚も海老も売り切れていて、ほんの数尾の小さな魚だけを持ち帰ったイザベラの頬を、父親は激しく打った---。
 父親の仕事は決して安定しているわけではなく、映画が当たれば羽振りがよくなるし、1 本コケれば、別荘の家具まで差し押さえられることも。しかし、たとえそれが娘アンナの結婚披露パーティーの前日だったとしても、名プロデューサーはあわてず騒がず、泣いている娘にいうのだ。「教会は差押えになっていないだろう?」。父親は自分が手がけた映画の小道具と、有名ホテルの名入りのナイフやフォークを集め、立派なパーティーを演出してしまう。海の見えるテラスにしつらえられたテーブルに並ぶのは、もちろん新鮮なシーフードとワイン。大きな海老や貝などが大皿に盛られ、生バンドも入って、新郎新婦も、招待客も、陽気に歌い、踊る。
 そんな父親に反抗しながらも、いつしかイザベラも映画の魅力に取りつかれ、同じ世界に入って仕事をするようになるのだった。イザベラたちは夏ごとに成長し、両親は老いていく。ひと夏を別荘で過ごした人々にとって、夏の終わりはいつも淋しい。




MENU 魚貝のごった煮グルメスープ 
木漏れ日の中、「魚のスープ」を複雑だけれど仲のよい大家族が食べる場面では、フィレンツェの肉料理とこの地の魚料理が引き合いに出されます。フィレンツェが食通に誇るのが巨大なビーフステーキとすれば、同じトスカーナ州の海岸沿いの町々が誇るのが、トマト、パセリ、にんにくがたっぷり入った魚料理なのです。車の中で、「ういきょうも買っておきました」という会話。さて、魚のスープの中にはその野菜、入れたのでしょうか。

作り方

【分量はグラス1杯分を1とした配合】

◇下準備
*あさりはきれいに洗って、砂出ししておく。
*ムール貝はまわりについた足糸をナイフで抜き取り、きれいに洗う。

1. 海老は殻つきのまま背わたを取る。厚手の鍋にオリーブ油を入れ、海老を強火でさっと焼いて、香りを出す。
2. 1の海老を取り出した後に、にんにく、種をとった赤唐辛子、セロリと玉ねぎを加えて弱火でじっくり炒める。
3. 2の鍋にトマトの水煮(種をとって粗くきざみ、ジュースはとっておく)、トマトペースト、オレガノを加え、煮つめる。
4. 白ワインを加えて約5分加熱し、トマトの水煮のジュース、フュメ・ドゥ・ポワソン、ローリエを加える。中火で約10分煮る。
5. 1の海老、あさり、ムール貝、白身魚を加え、火が通るまで弱火で煮て、味を調える。
*貝の塩分が出るので、塩辛くならないよう注意する。
6. 皿に盛って、イタリアンパセリを散らす。
7. フランスパンを、一緒に添える。(クルトンのように、スープに浮かべて食べるとよい)