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誰でも幼い頃の思い出の中に、必ず登場する場所や情景がある。イザベラにとって、それは子供の頃から毎年夏を過ごしたトスカーナの別荘だ。窓から見えるエメラルドグリーンの海と、両親、兄姉、そして男友だち。思春期の揺れ動く心。映画はイザベラの回想で構成されている。 映画プロデューサーの父親と、元大部屋女優の母親は再婚どうしで、兄や姉はそれぞれの連れ子。海辺の傾斜地に建っているらしいその別荘には、プールもあるし、インテリアもリゾートらしいアレンジだ。バルコニーの下には地中海が広がり、海辺で遊ぶ50〜70年代の女性たちのモードが美しい。イザベラも姉のアンナも、海で泳いだりヨットに乗ったりするが、日焼けした肌に鮮やかな水着やサンドレスがよく似合う。この別荘には、地下に試写室もあり、夏のあいだは父親もここで仕事をすることが多いようだ。映画の関係者もひんぱんに出入りし、大勢でにぎやかに食卓を囲むようすを真上から撮ったシーンは印象的だ。海を眺めながら味わう新鮮なシーフードとワイン。特に手長海老にイカ、しゃこ、かさご、ムール貝などで作る「魚のスープ」は、父親の自慢であり、家族と別荘で過ごす日々の象徴のようなものだ。 |
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年頃になったイザベラは、ある日父親から朝帰りをとがめられる。すねた気分のままキッチンにいって食事をするイザベラ。母親はエプロンをかけて、薄切り肉のカツレツをフライパンで揚げている。イザベラも、ここでなら母親に対して素直になれた。そのうち、イザベラは漁師の青年とつき合うようになる。畑で夕日を浴びながらのデート。ぎこちなく彼と抱き合っていた彼女は、やおら跳ね起きて「魚のスープ! 」と叫ぶ。家族の夕食のためにスープの材料を買いにいく途中だったのだ。魚も海老も売り切れていて、ほんの数尾の小さな魚だけを持ち帰ったイザベラの頬を、父親は激しく打った---。 父親の仕事は決して安定しているわけではなく、映画が当たれば羽振りがよくなるし、1 本コケれば、別荘の家具まで差し押さえられることも。しかし、たとえそれが娘アンナの結婚披露パーティーの前日だったとしても、名プロデューサーはあわてず騒がず、泣いている娘にいうのだ。「教会は差押えになっていないだろう?」。父親は自分が手がけた映画の小道具と、有名ホテルの名入りのナイフやフォークを集め、立派なパーティーを演出してしまう。海の見えるテラスにしつらえられたテーブルに並ぶのは、もちろん新鮮なシーフードとワイン。大きな海老や貝などが大皿に盛られ、生バンドも入って、新郎新婦も、招待客も、陽気に歌い、踊る。 そんな父親に反抗しながらも、いつしかイザベラも映画の魅力に取りつかれ、同じ世界に入って仕事をするようになるのだった。イザベラたちは夏ごとに成長し、両親は老いていく。ひと夏を別荘で過ごした人々にとって、夏の終わりはいつも淋しい。 |