赤紫色の特製朝食メニューは、殺人鬼の異常な精神の象徴。

ミザリー

1990年 アメリカ
監督/ロブ・ライナー
出演/ジェームズ・カーン キャシー・ベイツ





 人気作家P.シェルダンは、コロラドのロッジにこもって新作を書き上げ、ニューヨークに戻る途中で豪雪にみまわれる。彼は車ごと雪の斜面に転落し、気を失った。そこへ通りかかったA.ウィルクスという女性---彼女はシェルダン作品の熱狂的ファンだった---が、重症を負った彼を救出し、自分の家に連れ帰って看病しはじめた。
 「あなたの作品は全部読んだわ。憧れの作家を看病できるなんて」。元看護婦だったというウィルクスの看病は完璧で、複雑骨折で身動きできない作家のために、3度の食事を作ってはベッドへ運ぶ。実は彼女が、病院内で起きた乳児連続殺人の犯人で、精神異常者だなんて、シャエルダンがいくら作家でも、このときは想像もしなかっただろう。
 元看護婦、山のなかでのひとり暮らし。決して美人でもなく、どちらかというと垢抜けないウィルクスだが、純粋で、シェルダンのベストセラー・シリーズ『ミザリー』に対する愛着は、ちょっとふつうではない。最新作で、ヒロインのミザリーが死んでしまうことを知ってからは、ウィルクスは狂気にとりつかれた異常者に変貌する。彼女は作家を部屋に監禁し(といってもシェルダンはもともと身動きのできない体だが)、書き上げたばかりの新作の原稿をバーベキュー・ポットで焼き捨てた上で、最愛のミザリーを生き返らせる作品を書くよう、作家に強要するのだ。ウィルクスを町に買い物に行かせ、そのすきに車椅子で何とか脱出しようと試みるシェルダンの必死の駆け引きが、観るほうをハラハラさせる。





 さて、映画には、雪に閉ざされた山の暮らしに欠かせない保存食材を使って工夫したメニューの数々が登場する。ウィルクスが運ぶ朝食のトレイには、ブルーベリージャムをたっぷりすぎるほど塗ったトーストに紫キャベツを入れた炒め物、スクランブルエッグ、そして缶詰のソーセージ『スパム』らしきもの、アップルソース。これはいわゆる「愛情版」だ。ところが、作家が作品の中でミザリーを殺したと知ったあとの朝食は、いかにもおいしくなさそうな野菜の炒め物という「お粗末版」にとってかわる。この『スパム』については、映画のクライマックスで、作品の完成を祝う晩餐のために料理したミートローフを「スパイシーな味にするために『スパム』を加えるのがコツなの」と種あかしする台詞がある。
 そして、ベッドに縛りつけた作家の両足の骨を、2度までもハンマーで叩き割るウィルクスの狂った表情が、毒々しいまでに赤い朝食の皿の色とだぶって、思わず身震いさせられる。これが独占愛の究極の姿だとしたら、世の男性は気をつけなくてはいけないかも。



MENU スクランブル・エッグ・ア・ラ・ウィルクス
ウィルクス嬢は、精神異常者、恐ろしい、不気味、といったことばかりが強調されがちですが(いえ、実際そのとおりなのですけれど)、先入観をとりはらって画面を観察すると、彼女は実はお料理上手なことがわかります。このウィルクス風卵料理も、雪に閉ざされた暮らしであればこそ。館詰めや便詰め、貯蔵のきく野菜などを上手にアレンジした相違工夫の一品です。その後の料理との格差がすごいのも、ウィルクス風?

作り方

本誌参照